| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-176

アユの縄張り形成・崩壊の履歴効果

*田中裕美,中桐斉之(兵庫県立大環境人間),泰中啓一,吉村仁(静岡大院創造)

アユは採餌縄張りを持つことで知られている。春になると小さな縄張りを形成し、岩に付着する藻類を食べる。そして縄張りに侵入した魚を攻撃する。アユの「友釣り」はこの習性を利用したものである。

前年度の大会で、私たちは個体数が増加するときと減少するときのアユの縄張りの形成と崩壊のモデルを発表した。前回のモデルでは、最初のアユが生息地に入ったとき、すべての早瀬を独占するとなっているなど、実際のデータとかけ離れている点があった。そこで、本発表では、前回発表したモデルにさらに改良を加えた。モデルでは、アユには縄張りを持つ「縄張りアユ」、縄張りを持つことができない「あぶれアユ」、「群れアユ」の3種類がいると定義する。そして3種類のアユが利用する餌場は異なり、縄張りアユはいい餌場である「早瀬」を、あぶれアユは悪い餌場である「淵」を、群れアユは群れで移動しながら「早瀬」をそれぞれ利用する。

今回改良した点は、以下の点である。縄張りアユの縄張りには最大サイズがある。低密度では群れアユは縄張りアユより適応度が高くならない。また、1匹目のあぶれアユの適応度は、その時、すべてが群れアユとなったときの適応度より低い。これらの条件でも前回と同様、縄張りの崩壊点と群れ形成の臨界点には大きなずれがある。このモデルは、現実の観察により適合しており、実際のエネルギー収支からの予測を可能にできるかもしれない。アユの資源管理への応用への貢献を期待できる。

日本生態学会