| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-177

絶滅危惧種オガサワラモクズガニの小笠原父島における分布生活様式(予報)

小林 哲(佐賀大学),佐竹 潔(国立環境研)

オガサワラモクズガニEriocheir ogasawaraensisは,日本の本土産のモクズガニEriocheir japonica に比べて頭胸甲が横に広く,体色や鉗脚に生える毛の分布が異なり,成体サイズも甲幅7-10cmと巨大であるなど形態が異なり,さらに遺伝子のレベルでも差がみられるため,2006年に新種記載された小笠原諸島の固有種である.しかしその生態は謎に満ちており,まとまって採集されることが少ないことから,環境省のレッドリストでも絶滅危惧種II類(VU)にランクされている.本土種と同様に河川と海を回遊することは知られているが,生息環境や個体数の規模など,個体群の現状は多くの部分が不明のままである.そこで演者らは2007年6-7月と11月の二回にかけて,小笠原父島の河川で分布調査を行った.父島の河川は本土のものと大きく異なり.いずれも流程は数km以下で流量もわずかであり,100m以上の標高差を短距離で流れ落ちるため滝のような場所が多数存在する.河川感潮域は多くの川で数十m程度の非常に短いものが多い.河川感潮域は本土種ではメガロパが着底し稚ガニに変態する場所であり,個体群の維持にとても重要な場所であるが,今回の結果では小笠原種がいくつかの川で数m程度におさまる非常に狭い範囲で着底と変態を行っていることが明らかになった.一方甲幅10mm以上に成長した未成体は標高の高い源流部にまで分布を拡げていた.そして本土種と大きく異なり,下流域よりも山地の渓流部が分布の中心で,滝壺,岩盤の隙間の水たまり,岸よりの石の下などに身を隠しているのが採集された.基本的に水中生活ではあるが,水の乏しい環境に適応しており,陸上にはい上がることも多いと推察された.さらに今回の調査では努力量の割に捕獲数が少なく,本種が父島において非常に危険な状態にあることが推察された.

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