| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-181

マツカサガイの生息環境からみるミヤコタナゴ個体群への影響

秋山吉寛(北大地球環境),上野山大輔(福島水試),伊藤寿茂(新江ノ島水族館),吉田豊(栃木水試),岩熊敏夫(北大地球環境),丸山隆(東京海洋大海洋科学)

特別天然記念物ミヤコタナゴは,イシガイ類を産卵場所とするため,イシガイ類のいない水域では再生産できない.よってイシガイ類の分布や挙動は,ミヤコタナゴの個体群変動に影響を与える.ミヤコタナゴは研究の進まないまま1960年代以降急速に減少したため,減少原因はほとんどわかっていない.本研究はミヤコタナゴの減少を本種の主要な産卵母貝であるマツカサガイと関連づけ,マツカサガイに影響を与える環境要因から,ミヤコタナゴの衰退について議論する.

調査は2001年10月4日から21日にかけて,栃木県のミヤコタナゴ生息地保護区の水路で行なった.流程方向に20cm×20cmのコドラートを10m間隔で計75箇所設置し,コドラート内の物理環境(流速,水深,泥の堆積する厚さ,河床材の粒度)を測定した.その後,マツカサガイおよび調査水路の優占種であるシジミの1種を採集し,個体数を計数した.

より粒子の細かい河床材がより厚く堆積する水域ほど,マツカサガイの密度は低下したため,マツカサガイの生存は粒子の細かい河床材の増加によって不利になると考えられた.粒子の細かい河床材は,二枚貝の死亡率の増加や鰓に供給される酸素量の低下,水管の開口頻度の低下を起こす.これらはいずれもミヤコタナゴの再生産量を低下させる.したがって,水路内の泥の増加は,ミヤコタナゴを減少させる原因になると考えられた.農業用水路は人によって定期的に泥が除去されるため,タナゴと二枚貝の共生関係が維持される重要な生息場所である.また,密度が最高で1,900m-2に達するシジミの1種はマツカサガイの生息場所の89%に生息していたが,両者の密度を決定する環境要因は一部異なっていた.両者の関係を解明するためには,さらなる研究が必要である.

日本生態学会