| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-182

ブナ豊作翌年の野ネズミ高密度個体群における社会構造:出現・移入・消失のバランス

*増谷優, 三田瞬一, 星崎和彦(秋田県大・生物資源)

冷温帯の森林では、ブナの豊凶が野ネズミの個体数に影響することが知られている。岩手県南西部に位置するカヌマ沢渓畔林試験地において、ブナ豊作翌年(2006年)の野ネズミ個体群の社会構造の変化を調べた。

試験地は、ブナ、ミズナラなどが分布する多種混交林である。渓畔域とその右岸の斜面にかかる約1.7haに格子状に118個の生け捕りトラップを設置した。ここにはアカネズミ・ヒメネズミ・ヤチネズミの3種類の野ネズミが生息しているが、本研究ではアカネズミ・ヒメネズミに着目した。2006年5〜11月に原則として月1回、繁殖期と考えられる6・7月では2週間に1回、3晩連続で調査を行った。捕獲した野ネズミは指切り法で個体識別し、種・性別・体重・繁殖状況を記録してその場で放逐した。

調査期間中にアカネズミ287頭、ヒメネズミ174頭が捕獲された。個体密度は最大でアカネズミ94.0頭/100トラップナイト、ヒメネズミ72.3頭/100トラップナイトとなった。試験地内で生まれたと思われる幼体は春季(6〜7月)に多く出現し、その多くは8月には消失した。一方、秋季(9月)に新規の亜成体が比較的多く捕獲された。成体の繁殖状況は、春季では幼体の出現と対応していたが、秋季では繁殖状況にあるメスはほとんど見られなかったことなど、必ずしも対応していなかった。

よって、秋季に捕獲された亜成体は調査区外から移入してきた可能性が高く、調査区内で生まれた幼体の多くは生存していても調査区外に分散したものと考えられた。このことから、ブナ豊作翌年の高密度状態では、秋季に仔の分散が起こり、個体群の交流が行われていると考えられる。なお、仔の分散距離を把握するためにはさらに広い範囲での調査が必要であろう。

日本生態学会