| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-229

伊豆諸島の特定外来生物による林床植生へのインパクト評価

郡 麻里(国環研・環境リスク)

島嶼の生物相は外来生物の影響を受けやすく、特に外来草食獣による在来植物に対する直接的な食害は小笠原諸島や八丈小島におけるノヤギの被害事例の様に多くの島固有種や希少な植物種の存続にとって脅威である。環境省は2005年に外来生物法を施行し、我が国では千葉県房総半島および伊豆大島に侵入・定着している南アジア原産のキョンMuntiacus reevesi(シカ科)を特定外来生物に指定した。一方、本種による在来生物への影響についての基礎情報は限られており、生態系保全・管理のための効率的な調査・評価手法の開発は緊急課題である。伊豆大島にはニホンジカが分布しないためキョンの植食跡が特定し易いこと、キョンの定着が顕著な島東部の照葉樹林の対象区として、島西部にはキョンの定着の及んでいない同等な履歴の林分が残存し、林床植生の食害状況を比較可能なこと、及び生物地理学上重要な位置にある希少植物が分布する等の条件により、本研究では伊豆大島において保全対象側の林床植物の立場から、キョンによる食害の影響を簡易的に評価する手法を考案した。住民ヒアリングおよび現地踏査からキョンが生息する照葉樹林を特定し、空中写真解析により土地利用変遷、植生等環境要因が類似する対象地域をGISで抽出し、採植痕調査および林床植生の組成・構造比較を行った。結果、常緑広葉樹17種、及び絶滅危惧II類のラン科植物への食害が今回確認され、林床植生の組成・構造は、島東部では低木種や林冠形成種の後継稚樹が西の対象区に比べ著しく少なかった。被害度は全天空写真及び相対光量子密度による樹冠空隙率でも定量化でき、長期にわたる選択的食害圧は既に林分構造まで偏らせ、残存稚樹も鳥散布種に偏っていた。これら生態学的プロセスを考慮し、島西部のスダジイ林の林床植生の優先的な保護および島東部の森林の更新・林分構造の回復過程の長期的観測が必要なことが示唆された。

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