| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-278

放牧草地における牛糞尿がN2O放出に与える影響

*八代裕一郎(岐阜大),小泉博(早稲田大)

主要な温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)は主に土壌微生物の働きにより生成される。その温室効果はCO2の約296倍に及び、過去100年間の気候強制力への寄与は約6%を占める。その温室効果への影響力から全球のN2O収支の正確な推定が求められている。

放牧草地は熱帯から亜寒帯まで、世界中に分布する代表的な土地利用である。放牧草地は牛などの家畜による食草が行われ、随所に糞尿が投入される。この糞尿は窒素施肥効果を持つため、N2O放出を促すと考えられる。本研究では放牧草地における家畜糞尿がN2O放出に与える影響を明らかにする。

本研究では、黒毛和牛の放牧草地において、シバ群落と牛糞尿投入点のN2O放出速度を測定した。シバ群落における測定は2007年の4月から10月まで月1回程、牛糞尿投入点における測定は7月に牛糞尿が投入されてから、2週間に1回の頻度で行った。

シバ群落の平均N2O放出速度は極めて小さく、-0.1から1.1μgNm-2h-1の範囲で変動した。この値は付近の森林からのN2O放出速度(0.5から1.3μgNm-2h-1)と変わらなかった。一方、牛糞からのN2O放出速度は、投入から約10日でピークを迎え(最大で301.4μgNm-2h-1)、その後減少した。また、牛尿も投入から10-30日程度でピークを迎え(最大で1783.4μgNm-2h-1)、その後減少した。牛糞投入点はシバ群落に比べ非常に多くのN2Oを放出していた。牛糞尿の影響は投入から2ヶ月間以上も持続していた。

以上より、放牧草地における牛糞尿の投入はN2O放出量を大きく増加させることが明らかとなった。また、放牧草地全体からのN2O放出量は原植生である森林に比べ非常に大きいと考えられる。

日本生態学会