| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-279

マイクロコズムを用いたN降下物の土壌生態系への影響評価

*仁科一哉(名大院生命農), 竹中千里(名大院生命農), 石塚成宏(名大院生命農)

都市域に近い森林では人為起源のN降下物により、N供給量が生態系の要求量を超えたN飽和と呼ばれる状態の林分があることが指摘されている(Aber and Magill, 2004)。N飽和林における渓流水は高いNO3-濃度を示し、河川・海洋などの生態系を撹乱する事が懸念されている。しかし、森林生態系のN降下物に対する応答は一様ではなく、同程度の強度のN負荷がかかっていても、上記のようなN飽和状態にならない林分も確認されている(Fenn et al., 1999)。その一因として、土壌型の違いが挙げられているが、詳細な検討はなされていない。そこで本研究ではマイクロコズムを利用する事によって、N降下物による土壌生態系のN循環への影響の定量的な把握を行った。マイクロコズムの利用は、土壌型、植生の統一を容易にし、実際のフィールドにおけるN降下物の影響評価を可能にする。土壌に褐色森林土・黄褐色森林土の2種類を用いることにより、土壌型によるN降下物への応答の差異を調査した。調査方法は、愛知県西部の都市域から東部の郊外にかけて、5地点の広葉樹林プロットに、2種類のマイクロコズムを5個ずつ、2006年5月から1年間設置し、野外培養を行った。各地点のN降下物量は樹脂トラップ法で測定した。マイクロコズムの排水口にはイオン交換樹脂を設置し、イオン態N量流出量の測定を行った。設置期間終了後、マイクロコズムを回収し、土壌のNH4+濃度・NO3-濃度・微生物バイオマスN・N2O放出速度、NO放出速度の測定を行い、一般化線形混合モデルを用いてN降下物の影響評価を行った。その結果、有意水準5%ではN降下物により有意に増加している項目は見られなかったが、NO3流出量は両土壌型とも増加傾向が観察された(p=0.11)。しかしN降下物に対する応答(傾き)の差異は見られなかった。

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