| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-284

熱帯泥炭湿地林において材分解が泥炭堆積過程に与える影響

*嶋村鉄也(京大・AA研),百瀬邦泰(愛媛大・農)

森林生態系において材は炭素プールとなるだけでなく、腐食食物連鎖の基質となったり、植物の実生の更新場所となったりする。特に、材の炭素固定機能は熱帯泥炭湿地林において重要であると考えられる。熱帯泥炭湿地林は植物遺体が冠水条件下で分解せずに堆積した泥炭という有機質土壌の上に成立した森林である。泥炭の厚さは最大30m程度に達し、陸上における巨大な炭素プールとなっている。この泥炭は木質泥炭であり、材が主な基質となっている。本研究では、熱帯泥炭の堆積過程において材が果たす役割を解明するために、材の分解実験を行った。

泥炭の厚5mの泥炭湿地林において優占するPalaquim burckiiのブロック(6×6×3cm)を15mmのメッシュにいれ、林内のマウンド、地表面、地下10cm、20cm、40cmの地点に埋設した。埋設後、6ヶ月、12ヶ月、36ヶ月、48ヶ月後に材を回収し試料の重量と体積を計測した。

マウンド、地表面、地下10cm、20cm、40cmの順に一年あたりの重量分解定数は0.743、0.171、0.107、0.0554、0.0292で、体積分解定数は0.423、0.0701、0.0242、0.0059、0.0001となっていた。この結果から、表層では土壌動物などによる物理的分解と微生物活動やリーチングの影響による化学的分解の双方が分解過程を担っている一方で、下層では物理的分解は殆どおこらず、化学的分解がわずかに起こっていることが明らかになった。このことは、表層で材は物理的分解を経て細片化しながら泥炭に組み込まれていくこと、地下部の木質化した根などは、その形態を殆ど変化させないままにわずかに化学的な分解過程を経て泥炭に組み込まれていくことを示している。

日本生態学会