| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-285

炭素安定同位体比を用いた森林集水域における溶存有機炭素の動態解析

*高橋遥(京大・農),大手信人(東大・農),伊藤雅之,新井宏受(京大・農),松尾奈緒子(三重大・生物資源),勝山正則(地球研),西本聡志(京大・農)

森林生態系における溶存有機態炭素(DOC)の量的,質的な動態評価は,森林内部のDOCの生成・消費過程を知る上で,また,渓流によって連続している下流域の生態系への影響の大きさを把握する上でも重要な課題である.本研究は山地流域源頭部に位置する,森林流域におけるDOCの動態を明らかにすることを目的とし,DOCの濃度情報に加えて炭素安定同位体比についての観測を行った.調査地は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地である.流域内部の水文過程に沿って林外雨,林内雨,土壌水,地下水,渓流水を採取し,分析の対象とした.林内雨,土壌水,地下水は斜面の下部,中部に位置する2つのヒノキ主体の林分と,上部に位置する落葉広葉樹主体の林分の計3プロットで採取した.DOC濃度はどのプロットにおいても土壌表層で最も高く,土壌深度に伴って低下していた.特に土壌表層30cmまでに急減に低下し,それ以降は緩やかに低下するという特徴が見られた.δ13C-DOCは斜面中部,下部のヒノキ主体の林分では,土壌表層30cmまで緩やかに低下し,その後急激に低下した.このことから,DOC濃度が急激に低下する表層においては同位体分別が小さいDOCの吸着が主であり,より深部で同位体分別が大きい微生物の分解によってDOCが消費されていることが示唆された.また,落葉広葉樹主体の林分では,δ13C-DOCが土壌深度30cmまでの表層土壌層でヒノキ主体の林分とは異なり緩やかに上昇する傾向がみられ,樹種によっても異なったDOC濃度低下のメカニズムが働いていることが示唆された.

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