| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-022

常緑広葉樹の冬の光合成:個葉−個体レベル

*宮沢良行(九大熱農研),大槻恭一(九大演習林)

暖温帯林の林床には、葉寿命の大きく異なる常緑広葉樹と落葉樹が共存している。光合成期間の異なるこれらの種では、同化器官である個葉の生理、形態に加え、保有する葉の面積や葉の樹冠内配置など、受光の効率を規定する樹形もまた異なる。しかし、こうした個々の特性の違いは明らかなものの、個体成長にかかわる様々な面(光獲得や光合成生産など)も、常緑広葉樹と落葉樹では明確に異なるのかについては、知見は限定的である。そこで本研究は、林床に共存する常緑広葉樹シロダモと落葉樹イヌビワの稚樹を対象に、夏-冬にかけて個体レベルの受光量と光合成生産を算出し、比較した。調査には3段階(S, M, L個体、樹高はそれぞれ15cm, 30cm, 60-80cm)のサイズの稚樹を用い、葉・葉柄・枝軸の三次元データと個体上空の林冠空隙の情報、および個葉の光合成特性を定期的に測定した。樹形解析プログラム(YPLANT, Pearcy & Yang 1996, Oecologia)を利用して、測定データを基に、8月から2月にかけて各個体の自己被陰と受光量、光合成生産を算出した。S,M個体では、地上部重あたりの総葉面積(葉面積比LAR)はイヌビワで大きく、受光量(地上部重あたり)もまたイヌビワで大きかった。自己被陰の程度はどちらの種でも小さく、LARが受光量を規定していた。一方、側方への分枝の多いL個体では、シロダモ・イヌビワどちらでも自己被陰の程度が大きかった。本発表ではさらに、光合成生産の比較の結果を紹介するとともに、冬の光合成生産の有無も考慮した上で、常緑広葉樹と落葉樹の林床での光合成生産の比較をおこなう。

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