| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-024

活性の高い葉は老化しやすいか?-一枚の葉で構成される植物を用いて-

*冨松 元(茨大理・畜草研),堀 良通(茨大理),板野志郎(畜草研)

一般的に植物は複数の葉から構成されている。多くの研究によって,個葉が個体内で生理的に相互作用をもつことで,個体全体の物質生産を最大化していることが示唆されている。時系列に沿った個葉特性の変化は,この個葉間での相互作用(窒素分配率の変化など)と老化による内在的要因との主に2つの要因によって影響を受ける。本研究では,1枚の葉で構成されるヤマタイミンガサの栄養成長段階の個体を対象に調査を実施した。1枚の葉のみで構成されている植物は,同化器官どうしの相互作用がないため、葉齢に伴う生理特性の変化を明確に理解できる。

我々は,“葉の老化は光合成活性が高いときに促進される”との仮説をたて,土壌水分条件の異なる斜面上方と斜面下方に生育するヤマタイミンガサを対象に,葉の水ポテンシャル,光合成速度(Amax),葉内窒素濃度(Nmass),葉寿命等の生理特性を測定した。さらに,光合成活性の指標として,光合成窒素利用効率(PNUE)と最大カルボキシレーション速度(Vcmax)を算出した。

その結果,斜面上方の乾燥した場所に生育する個体の葉は,水ストレスを受け,気孔を閉じることでAmaxが抑えられていた。Nmassは,斜面上方と下方に生育する個体間で有意差がなく,約0.020−0.023 gNg-1の範囲内で生育期間通じて安定していた。しかし,光合成活性の指標となるVcmaxPNUEは斜面上方と下方ともに葉齢にともなって減少した。この窒素濃度の減少を伴わない光合成活性の減少は,葉内組織の不活性化を示し,まさに内在的な老化を示唆する。特に,光合成活性の高い斜面下方で生育する個体は,早期に葉内組織が不活性化し,結果として短い寿命となった。以上のことから,“葉の老化は光合成活性が高いときに促進される”との仮説を支持する結果が野外に生育するヤマタイミンガサの1枚葉によって得られた。

日本生態学会