| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-027

モミとイヌブナの自然環境における光合成と成長

*宮下彩奈(阪大・理), 舘野正樹(日光植物園)

日本の温帯域は、常緑落葉針葉広葉など様々な生活型の樹種が分布し多様な森林が見られる地域である。一般にブナなどの落葉広葉樹が優占すると考えられている冷温帯においても、スギなど温帯性の常緑針葉樹が見られ、極相林の定義は困難である。このような複雑な森林の成立機構は多くの研究者の興味をひいてきたが、常緑針葉樹と落葉広葉樹は大きく性質が違い比較が困難であるため、混交林を前提としたときの互いの適した生育環境や実際の生育状況などはよく分かっていない。

そこで本研究では、太平洋側冷温帯林にみられる針広混交林、モミ・ツガ・イヌブナ林に着目し、同林の代表樹種であるモミ(常緑針葉樹)とイヌブナ(落葉広葉樹)実生の成長特性を調べた。

多くの樹種は実生によって更新するため、実生の成長や生存を調べることは林の成立機構を知る上で不可欠である。また、林床の植物は光環境によって成長を大きく制限される。そこで、混交林に特有の光環境と両種の生活型の違いに着目し、以下のような実験を行った。

混交林の林床を模した圃場(オープンサイト、落葉樹林下、常緑樹林下)に両種の実生を植栽し、成長解析と光合成速度の測定をおこなった。また、各圃場に光センサーを設置し、光強度の詳細なデータを季節を通して収集することに重点を置いた。

結果、オープンサイトでは意外に弱い光強度が稼ぎの大小に影響を与えること、その他のサイトでは葉面積と光合成可能期間や呼吸量が影響を与えていることなどが明らかになった。特に落葉樹林では光強度の季節変化により、モミの光合成可能期間に有利に働いていると思われる。

これらの結果を用いて、各光環境における実生の光合成能力、稼ぎ、成長特性を検討した。また、別に野外の調査地を用いておこなった両種の幼木の成長量解析の結果と合わせ、モミとイヌブナの成長戦略の違いと、両種による混交林の成立機構を考察した。

日本生態学会