| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-028

気孔の頻度・サイズの多様性とガス交換特性

*澤上航一郎(東大・日光植物園),舘野正樹(東大・日光植物園)

陸上植物は水生植物と異なり、常に乾燥による枯死の危険に曝されている。これを防ぐため、陸上植物は表皮をクチクラという防水性の膜で覆っている。クチクラで表面を完全に覆えば水の蒸発は防げるが、同時に二酸化炭素を吸収することもできなくなってしまう。水の蒸発を防ぎつつも二酸化炭素を吸収するための装置として、陸上植物は気孔を発達させた。一般的に、気孔は光合成の場である葉の表皮に存在し、開閉することで二酸化炭素の吸収と水の蒸発を調節する。気孔を介した二酸化炭素と水のやりとり(ガス交換)に関する研究は数多いが、それを気孔の密度・サイズと関連させて示した研究はほとんど存在しない。本研究では、植物園に存在する植物126種について測定した気孔の密度・サイズを示し、さらに草本種についてガス交換および葉の構造との関係を示す。126種の気孔密度は19.0〜1184 cells mm-2の範囲であり、気孔サイズは5.69〜58.5 μmの範囲であった。密度とサイズから求めた葉面積当たりの最大気孔開口面積は0.367〜8.98%の範囲であった。密度またはサイズと最大光合成速度(葉面積あたり)の間には相関が無かったが、最大気孔開口面積と最大光合成速度には高い相関が見られた。しかし、気孔開口面積と最大蒸散速度との間の相関は低かった。高い最大光合成速度を示す植物は、サイズの割に高い密度の気孔を持つことで高い気孔開口面積を示し、高い二酸化炭素吸収能力を実現していたが、多くの植物では必ずしも気孔を最大まで開く必要なく実現しているようである。最大蒸散速度と最大気孔開口面積の相関が低かったのは予想外であったが、個葉レベルでは開口面積とガス交換速度の関係が直線でない事は過去に示されており、実際の気孔開口面積や葉内構造が蒸散速度に与える影響も大きいと考えられる。

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