| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-042

樹木実生の根系形態と窒素獲得ー異なる遷移段階の種間比較ー

*藤巻玲路, 酒井暁子, 金子信博(横浜国大・環境情報)

大都市近郊の森林では窒素降下物が多く、好窒素性の植物の優占度が増すなど、植物群落の組成が改変される事が危惧されている。窒素負荷の高い環境下で、植物がどのように窒素を獲得し成長様式を変化させるのかを理解する事は、生態系を管理し対策をたてる上で重要である。

本研究では、植物の土壌資源獲得器官である根系に着目し、遷移段階の異なる8種の樹木実生を用いて根系の形態と窒素獲得について調べた。ここでは、窒素獲得に関連の深い根系の性質を明らかにする事を目的とした。

神奈川県北西部の丹沢山地において先駆的樹種であるアカメガシワ・ムラサキシキブ・キブシ、遷移後期種であるイヌブナ・イロハモミジ、中間的なイヌシデ・クマシデ・ウリカエデの実生を材料とした。これまでの研究から、窒素負荷の大きい環境下での成長の促進は、より先駆的な樹種ほど良いことがわかっている。丹沢山地で採集した種子を、横浜国立大学に設置したビニールハウスに播種し、一般の降雨にみられる窒素量を週に一度施与した。5ヶ月後、各3個体を刈り取り、乾燥重量と窒素濃度を測定した。また、根系について、主根と側根系を切り分け、それぞれ重量と根長を測定した。同時に1個体あたり3本の側根系について長さと根端数を計測し、根長:根重比と根端数密度をもとめた。

植物体の窒素量と相関が高かった根系の性質は根長や根端密度であり、側根の根長:根重比では相関は弱かった。このことは、植物の窒素獲得には、根系の細長さよりも根系の枝分かれの形の方が重要である事を示唆している。また、先駆的樹種では根端数密度が低く、窒素獲得は根長に依存する傾向が見られた。根系の枝分かれ構造が単純な先駆的樹種では窒素獲得の効率が悪いが、根系の拡大が容易なため、窒素利用可能性の高い環境下では有利な性質であるのかもしれない。

日本生態学会