| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-069

雪解け傾度を反映したアオノツガザクラの繁殖様式と集団維持

*亀山慶晃, 工藤 岳 (北大・地球環境)

植物集団における遺伝子流動は、花粉媒介者によって運ばれる花粉の量と質、それらに対する潜在的な和合性や花粉間競争など、様々な要因によって変化する。高山生態系では、雪解け時期の違いを反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者の活性や他種との競争関係が変化する。このような変化は、植物の繁殖システムや集団の維持機構にどのような影響をもたらしているのだろうか?北海道大雪山系に広く分布するアオノツガザクラは雪解けの遅い雪田で優占し、雪解けが早い場所ではF1雑種のコエゾツガザクラと競争関係にある。アオが受け取る花粉は、他家、自家、コエゾの3通りであるが、自家およびコエゾ花粉に由来する種子は、成長の過程でほぼ全て死亡する。傾度に沿った繁殖成功度とそれを決定している要因を明らかにするため、自家和合性やコエゾ花粉に対する障壁の強さ、花粉間競争、自然集団における花粉親組成、自殖種子の由来(同花もしくは隣花)を調査した。自家およびコエゾ花粉はともに他家花粉の半分程度の結実率を示したが、同時に受粉させた場合にはほとんどが他殖となり、選択的な他殖メカニズムの存在が示された。それにも関わらず、自然状態では多量の自殖種子が生産されており、マルハナバチによって供給される花粉の大部分が、隣花花粉であることが示された。また、雪解けの早い場所では、マルハナバチの訪花そのものが極めて少ない年が存在した。その場合、自動的な同花受粉によって少数の種子が生産されるものの、強い近交弱勢によって繁殖成功度は著しく低下していた。雪解け傾度に沿ったこのような差異は、マルハナバチの活性やコエゾとの種間競争の強さを反映したものと推察され、生物間相互作用を介した花粉流動の量的、質的変化の重要性を示している。

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