| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-073

アオモリトドマツの球果における、受粉の有無と無関係な生存・成長について

*関剛(森林総研東北), 高橋利彦(木工舎「ゆい」)

針葉樹において、受粉した胚珠を全く含まない球果を成長させることは、繁殖への光合成産物分配という点では非効率と考えられる。そのような球果では種子を生産する可能性がないため、球果に分配された光合成産物は繁殖に寄与しない。

一方、受粉期以降では、球果、特に種鱗の速やかな成長が重要である可能性もある。強度や厚みのある種鱗によって胚珠を覆うことは、胚珠の植食者による加害や乾燥などによる消失を減少させるかもしれない。

こうした背景の下、アオモリトドマツの球果の成長に受粉が関与するのかどうかを確認するために、受粉期において花粉の遮断実験を行った。実験を行った場所は、奥羽山脈・岩手山西方の亜高山帯下部に位置する針広混交林である。林冠木5個体において、分枝と雌花芽の位置が左右対称な一次枝を選び、一方の雌花芽を花粉遮断処理用とし、残りを対照用として受粉可能な状態にした。花粉遮断には二重構造の交配袋を使用した。開芽前の5月中旬に花粉遮断処理用と対照用の雌花芽双方に交配袋をかけた。花粉飛散が始まる10日ほど前にあたる6月上旬、対照用の雌花芽から交配袋をはずした。花粉遮断処理に使用していた交配袋は花粉飛散終了後の6月下旬にはずした。球果は9月上旬に収穫し、種子のX線撮影によって花粉遮断が行われていたことを確認した。

花粉遮断をした球果は、対照の球果同様、すべて9月上旬まで生存した。同じ一次枝上で花粉遮断をした球果と対照の球果でサイズを比較した結果、花粉遮断した球果の長径、短径、生重量は対照の球果よりも小形化することはなかった。

アオモリトドマツでは球果の成長に受粉は関与しないといえる。アオモリトドマツは、胚珠の外的な要因による消失を減少させる方法で球果を成長させているのかもしれない。

日本生態学会