| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-077

花粉を介した遺伝子流動の時空間的不均一性 〜ブナ花粉は風と共にさりぬ〜

花岡創(岐阜大院・連農),富田基史(東北大院・農),袴田康子(岐阜大院・農),陶山佳久(東北大院・農),向井譲(岐阜大・応生)

植物の花粉散布パターンは様々な要因により時空間的に変動すると考えられる。しかし, これまでの花粉を介した遺伝子流動研究の多くは, それらの変動を考慮しない形で行われてきた。本研究ではブナを供試種として, 空間的な花粉散布のパターンを階層ベイズモデルにより表現すると同時に, 交配相手の時間的な変動について検討することを試みた。

岐阜県下呂市, 岐阜大学位山演習林内に4haの調査プロット(ブナ163個体が存在)を設置した。プロット内の4個体から合計で673個の堅果を採取し, マイクロサテライト解析および父性解析を行った。それを階層ベイズモデルに適用し, 花粉散布密度の空間パターンを推定した。その結果, 花粉散布は方角により偏りがあり, 北東および南西の方位において長距離にわたり確率密度が高くなる傾向が見られた。またそれは, 調査プロット内で詳細に測定したブナの開花期間中の風の傾向と一致していた。

調査プロット内の1個体を対象に, 交配袋を脱着することにより特定の2日間だけ受粉可能とした雌花のついた枝を計18枝設定した。それらから採取した堅果の父性解析を行い, 交配相手の時間的な変動について検討した。その結果, 飛散花粉密度の高かった5月1・2日および3・4日に受粉した堅果77個について父性解析を行うことができ, 花粉親を17個体同定することができた。そのうち, 両期間で共通して同定された花粉親は種子源の近隣に存在する3個体のみであり, 交配相手は2つの期間で有意に異なることがわかった。

以上のことから, ブナの花粉散布は時空間的に不均一であり, また, 風が花粉散布パターンを決定する重要な要因の一つであることがわかった。

日本生態学会