| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-101

一回繁殖型多年草ウバユリとオオウバユリの生活史戦略の違い

*谷 友和, 舘野正樹(東大・日光植物園)

ウバユリ・オオウバユリはユリ科の大型多年草で、一回繁殖型植物である。両者は日本の中部付近に分布境界を持ち、北方に生育するオオウバユリはウバユリよりも大型化し、時には花茎高が2mを越える。しかし、分布と個体サイズは地理的に連続変異を示すという見解が近年有力である(以下、両者を含めてウバユリと記述)。我々はこれまでの研究で、寒冷で積雪の多い地域でウバユリの開花個体のサイズが大型化する傾向を検出したが、冷温環境下で大型化するメカニズムは明らかではない。本研究では、開花個体のサイズは成長速度と、種子定着から開花までの年数(開花所要年数)に規定されると仮定し、個体の成長速度と死亡率が生育環境によって変動する状況において、適応度を最大化するような開花所要年数と開花個体サイズ(最適生活史戦略)をシミュレートすることを目的とした。

個体の死亡率と成長速度、開花所要年数を変数とするウバユリの成長モデルを作成し、これらの変数を変えて300年間の積算種子生産量(適応度の尺度)を計算した。さらに死亡率と成長速度のすべての値の組み合わせについて、適応度を最大化する最適生活史戦略を求めた。その結果、最適開花所要年数は死亡率が高い時、または成長速度が遅い時に増加した。最適開花個体サイズは死亡率が高いほど増大し、高死亡率で、かつ成長速度が速い時に最大化した。低死亡率条件下では、相対的に最適開花個体サイズは小さかったが、成長速度が遅い場合、ややサイズが増大する傾向があった。極度に死亡率が高く、かつ成長速度が低い場合には、個体群が成立できなかった。結果に基づいて推測すると、冷涼な環境下では、個体の死亡率が高く、かつ年成長速度が速いために、開花所要年数の増加、および個体サイズの大型化が生じている可能性がある。

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