| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-102

冬緑性草本ヒガンバナの成長解析

*中村敏枝(首都大・生命科学),西谷里美(日本医大・生物),可知直毅(首都大・生命科学)

ヒガンバナは冬緑性の多年生草本で,他の草本が盛んに活動する夏季には葉を持たない。関東地方における生育期間は10月から翌年5月までの約8ヶ月である。個体バイオマスの季節変化から,ヒガンバナの成長速度(単位葉面積あたり単位時間あたりのバイオマス増加量)が,比較的温暖な秋ではなく,冬から早春に高いことをすでに報告した(第52回大会,2005年)。今回は,呼吸速度を考慮して推定した総生産,および物質生産を支える光合成の季節変化について報告する。

呼吸および光合成の測定は,首都大学(八王子市)の実験圃場でポット栽培した植物を用いて,およそ1ヶ月間隔で行った。呼吸測定は開放系のシステムで行い,温度を調節したチャンバー(0C〜35Cまで3〜4段階)にポットから掘り上げた2個体を入れて,赤外線ガス分析計(BINOS 100-4P)で二酸化炭素の放出速度を測定した。光合成測定には,携帯用光合成蒸散測定装置(Li6400)を用い,毎回3〜5個体の第2葉と第3葉について,温度22 C,二酸化炭素濃度370ppmで,光飽和時の光合成速度を求めた。

呼吸速度は,葉が展開する10,11月に最大となり,その後,冬から春に向かって低下した。しかし,呼吸と成長を合わせた総生産の速度(単位葉面積あたり単位時間あたりの総生産量)では,11月よりも12月以降3月までの方が高かった。光合成速度はおよそこれに対応しており,12月に最大値を示した後,2月においても最大値の75%,4月上旬においても65%を維持していた。一方11月上旬の光合成速度は,枯死直前の5月上旬と同程度に低く,最大値の30%程度であった。これらの結果は,ヒガンバナが秋よりも温度条件の厳しい冬に適応した物質生産のスケジュールをもつことを示している。

日本生態学会