| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-149

アオモンイトトンボにおける頻度依存的に変化する雌二型間のサイズ差

*澤田 浩司(香椎高校), 粕谷 英一(九大・理・生物)

アオモンイトトンボ(Ischnura senegalensis)には、動物全体でみても珍しい特徴として、雌の体色に二型が存在する。一方は成熟すると褐色の胸部をもつ雌型雌、他方は雄と同じ青緑色の胸部をもつ雄型雌であり、常染色体上の1ないし少数の遺伝子座の限性遺伝によって決定される。動物の雄多型の適応的意義については繁殖戦略に基づく研究が進んでいるが、雌多型については理解が進んでいるとはいえない。本種の福岡市近郊の個体群では、雌型雌と雄型雌の比が約3対1で安定する傾向にあり、雌二型は負の頻度依存淘汰によって維持されるのではないかと考えられる。

過去の野外個体群での調査により、各個体群における雄型雌および雌型雌の平均後翅長の差には、雄型雌の頻度と負の相関があった。つまり、ある個体群における雄型雌の頻度が低い場合には、平均後翅長の差が大きい(雄型雌がより大きい)という傾向にあった。室内で1回のみ交尾させた雌の産卵の調査を行い、雌の後翅長と産卵数(1週間あたりの平均産卵数)との間に正の相関があることも判明した。したがって、平衡頻度より低い型の雌は、体長がより大きくなり産卵数も増加することによって有利になることが考えられる。成虫の体長は幼虫時の成長に大きく影響されると考えられるので、視野を広げて幼虫時についても調査する必要がある。今回は、各タイプの幼虫(雄に羽化した幼虫、雄型雌に羽化した幼虫ならびに雌型雌に羽化した幼虫)について環境選択実験を行い、各タイプの幼虫の成長が頻度依存的に変化する可能性を検討した。

日本生態学会