| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-159

形質進化における自然選択と遺伝的浮動の相対的な重要性:ブラウン運動モデルとの比較

*遠山弘法(九大・理・生態), 矢原徹一(九大・理・生態)

生物の多様化をもたらす重要な進化的な力として自然選択と遺伝的浮動があげられる。本研究では、森林性のエイザンスミレと草原性のヒゴスミレの姉妹種を用いて2種間で異なる形質に対し、自然選択(均一化選択、多様化選択)と遺伝的浮動のどちらが相対的に重要なのかを明らかにする事を目的とした。

選択と浮動の相対的な重要性を明らかにするために、系統樹を基にした解析を行った。具体的には、系統樹と形質値から推定される対比を用いて、中立(ブラウン運動モデル)を仮定した形質進化を10000回シミュレーションし、実データとの比較を行った。系統樹の推定は、全国からサンプリングされたエイザンスミレ11集団63個体とヒゴスミレ11集団54個体のAFLP533遺伝子座で行った。形質値の測定は、同一環境下で8ヵ月間生育させた後に5つの花形質、3つの葉形質、5つの資源分配形質について行った。

春葉に関わる3形質と種子数/さく果が種間で異なっていた。特に春葉重/面積は両種内で均一化選択が働いており、それぞれの環境に対する適応の結果進化したことが示唆される。また、4つの花形質、1つの葉形質、4つの資源分配形質が種間で異ならなかった。そして、1開放花の乾重、開放花への総投資量については両種内で均一化選択が働いていた。このことは、植物が花粉媒介者に支払うコストは両種間で維持されていることを示唆する。また、夏葉面積についても両種内で均一化選択が働いていた。このことは、森林での樹木の展葉や草原での他種の優占による光環境の悪化が、両種に類似した環境を与えていることを示唆する。本研究をまとめると、種間で異なる形質、異ならない形質に関わらず均一化選択が働いていた。

日本生態学会