| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-167

淡水二枚貝類との産卵共生関係を介したタナゴ亜科魚類の卵形の進化

北村淳一・曽田貞滋(京大・理・動物)・中島淳(九大・農)

コイ科タナゴ亜科魚類は、生きた淡水二枚貝の鰓内に卵を産み込むという特異的な産卵様式を持つ。貝内で生活するため、タナゴ類は形態・生理・行動的な適応形質を持ち、多様に分化してきている。本研究は本州・九州に広く分布するタナゴ類のタビラAcheilognathus tabiraを用いて、卵形の地理的変異とそれを引き起こす要因について、各個体群の卵形と利用している貝種を野外調査し、卵形の進化の方向性を明らかにするため系統地理解析を用いた。本種の卵形は、本州日本海側と九州は長蛇円形(長径約3.0mm、短径1.2)で、本州太平洋側は短楕円形(2.3、1.3)であった。利用している貝種は、本州日本海側は比較的サイズが大きい止水生のドブガイ亜科貝類(殻長約9 cm)、九州は流水生のイシガイ亜科貝類のカタハガイ(約6 cm)のみで、本州太平洋側はイシガイ亜科貝類(約6 cm)であった。卵の長径の長さと利用する貝種類には関連性があることが示された。タビラ類の卵形の進化の方向性は2008年1月現在、系統地理解析を行っており、学会までには明らかとなる。本州太平洋側の卵の長径が短いのは、同じ地域に生息する卵の長径が長い他種タナゴ類(近畿圏はイチモンジタナゴA. cyanositgma、関東・東北地方にはタナゴA. melanogaster)の存在が影響している可能性がある。両種はドブガイ亜科貝類を利用していたことから、過去の競争の結果によって、タビラの卵形が進化したと考えられた。今後は、貝種間の鰓構造の比較解剖、両卵形の貝種に対する適応度の関係、および両卵形個体群間の交雑実験を行い卵形成の生理的要因から検討する。

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