| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-190

捕食者の餌選択の進化が捕食-被食系の複雑性-安定性関係に与える影響

*山口和香子(東北大・生命科学),近藤倫生(龍谷大・理工),河田雅圭(東北大・生命科学)

自然界では、種数が多く結合度が大きい複雑な食物網が維持されている。しかし初期の理論研究で、複雑な食物網ほど局所安定性が低下することが示され、食物網の複雑性―安定性関係は生態学において大きなテーマとなってきた。

一方で、近年、生態学的ダイナミクスに進化的ダイナミクスを考慮することの重要性が示され、両者を組み合わせたモデルが出されてきた。しかしそれらは、単純な系で進化が安定性に与える影響を調べたものであり、集団内での遺伝子頻度を明確に仮定した進化による多種系のモデルで食物網の複雑性―安定性関係を調べたものはない。

食物網構成種のうち捕食者は餌利用形質を進化させる。餌利用の進化として、利用可能な餌の幅が進化する場合がある。このような進化は群集動態に対して撹乱的な効果をもち、ひいては系の安定性に影響を与えるかもしれない。そしてこの影響は、系の複雑性によって異なる可能性がある。

本研究では、餌利用の進化を仮定することによって群集はどのような影響を受け、それにより、捕食―被食系の複雑性―安定性関係にどのような影響を与えるのかを調べる。そのために、捕食者の食べる餌種が進化によって変化しうる、捕食者個体ベースの捕食―被食系モデルを構築し、様々な複雑さをもつ系において絶滅の起こりやすさを調べた。

その結果、餌利用の進化を仮定することで絶滅が起こりやすくなり、種数が多く結合度が大きいような複雑な食物網ほど不安定となることがわかった。そして、餌利用の進化を仮定することで絶滅が起こりやすくなるのは、捕食者の食べる餌種が変化するためであることが示された。

本研究は、食物網の複雑性―安定性関係を考える上で、餌の種類と幅の進化による食物網のリンクの変化を考慮することの重要性を示した。また、本研究の進化を考慮した食物網モデルは今後の食物網研究の基盤となるだろう。

日本生態学会