| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-212

食物網の進化と侵入に対する脆弱性の関係について

吉田勝彦(国立環境研・生物)

生物群集はそれぞれ固有の進化の歴史を持つ。安定した環境で長い時間をかけて進化した群集もあれば、ごく最近に大規模な撹乱を受けたために成立してからまもなく、短い時間しか進化していない群集もある。進化した時間の長さの差は群集の構造に影響を与え、それはその群集の、侵入生物に対する脆弱性に影響すると考えられる。そこで本研究では食物網モデルを用いて、進化した時間の長さが違う複数の食物網に外部から生物を侵入させるコンピュータシミュレーションを行い、進化した時間の長さによって食物網構造がどのように変化し、そしてそれが侵入生物に対する脆弱性にどのように影響するのかを解析した。

全く進化していない食物網では、動物種は少数の餌種しか捕食しておらず、また植物種の増殖力も低い。これらの種は捕食に弱いため、全く進化していない食物網では強力な雑食性の捕食動物が侵入した時に規模の大きな絶滅が起こりやすい。しかし、植物種に対する摂食圧が低く、植物種は新たな競争相手の出現に耐えられるので、植物種が侵入しても種の絶滅はあまり起こらない。進化する時間が長くなると、動物種の餌種の数、植物の増殖率が急激に増加する。そのため、強力な雑食動物の侵入に対して一時的に頑健な状態になる。しかしこの状態は長くは続かない。更に食物網が進化すると、植物1種当たりが支える動物の種数が増える。そのため、長い時間進化した食物網は、強力な雑食性の捕食動物や植物種が侵入して既存の植物種を撹乱すると、植物に依存する多くの動物種が巻き添えになって絶滅しやすくなる。本研究の結果は、食物網構造は時間とともに変化し、その結果外部からの生物の侵入に対する脆弱性も変化することを示唆している。

日本生態学会