| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-214

駆虫剤最適散布量に関する数理的研究

*加藤直人(横国大・環情), 小谷浩示(横国大・環情), 松田裕之(横国大・環情)

ヒトエキノコックス症はエキノコックス多包条虫が原因で引き起こされる人獣共通感染症であり、北海道で問題となっている。北海道では、エキノコックスの成虫がキタキツネ、幼虫が野ネズミに寄生することで、エキノコックスの感染サイクルが形成される。ヒトは環境中に存在するエキノコックスの虫卵を経口摂取することでエキノコックスの幼虫に寄生され、発症した場合、重篤な疾病を引き起こすため、感染リスクの低減が望まれている。ヒトへの感染リスクを減少させるためには環境全体の虫卵量を減少させ、自然界での感染サイクルを断つことが重要である。

現在、ヒトエキノコックス症感染リスク対策として感染リスク低減に有効な手段としてキツネに寄生した成虫に対する駆虫剤の散布実験が北海道の各地で行われている。本研究は最適化手法を用いることにより駆虫剤散布による感染リスク管理の効率化を目的とする。

キツネとネズミの個体数密度の季節変動を想定し、両宿主をそれぞれ未感染・感染の2つの疫学的状態に分けた周期変動する係数を含む4元連立常微分方程式モデルを構築した。この力学系を用いて、駆虫剤散布にかかるコストとヒトへの感染リスクを考慮し、損失を最小化する駆虫剤散布量を求める。さらに、係数の変動と最適な駆虫剤散布量の関係を検討し、最適な駆虫剤散布時期を求める。

力学系の安定性解析をした結果、寄生虫が絶滅しない平衡状態が大域安定になることが、係数が定数の場合は解析的に、周期変動する場合は数値的に確かめられた。また、寄生虫を根絶するために必要な努力量についても同様に前者は解析的に、後者は数値的に求めた。最後に係数が周期変動する場合に最適駆虫剤散布量は宿主と同周期で周期変動することを数値的に示し、最適な駆虫剤散布時期について考察した。

日本生態学会