| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-224

植物病原菌の越冬と分布域の拡大−生活史の違いにみる病原菌と植物の伝播戦略−

鈴木清樹(九大・理・生物),佐々木顕(総研大・葉山高等研)

植物にとっての病原体は,ウイルスや細菌よりも糸状菌にその種類が圧倒的に多く,また逆に植物体との双利共生関係にある糸状菌も同様に多数存在している.この植物と糸状菌の密接な関係を理解する上で重要になるのが,多種多様な繁殖や感染の様式を端的に表している双方の“生活環”にある.これまで演者らは,病害発生圃場での作物収量や病害サイズを完全混合疫学モデルや格子シミュレーションによって解析し,抵抗性品種の導入の効果に関する多くの知見を得てきたが,一圃場内における一回の作付け期間に限定したシンプルなモデルであった.そこで本研究では,宿主病原体の双方の個体数のボトルネックとなる“越冬”の際の生活史に注目し,作物病害として典型的な糸状菌の生活環を取り入れた多シーズンモデルの構築を試みた.まず糸状菌の特性として寄生性と腐生性を設定し、罹病植物体からの感染率(寄生性)と土壌残渣中の枯死体で繁殖する糸状菌の増殖率(腐生性)間にトレードオフを持たせた.一方宿主植物においては均一な作付け・刈り取りが行われる圃場と,自然な野生状態での繁殖の場合とで比較した.各環境下での越冬に際して寄生性・腐生性がどのように有利に働いているのかについて検討することによって,圃場内での腐生菌による連作障害や野生環境下での宿主植物の適応戦略について考察する.

日本生態学会