| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-231

オオヒラタシデムシの生態調査

白石恭輔,山田和史,藤森大輔,廣田忠雄(山形大・理・生物)

分散能力に対する投資には、しばしば個体変異が観察される。昆虫では、長翅型と短翅型、飛翔筋の有無といった飛翔形態の多型が知られている。多型が生じ、維持されている究極要因として、分散行動のコストや他の生活史形質とのトレードオフが考えられる。例えば、飛翔できない短翅型に比べ、飛翔能力の高い長翅型のメスの方が、繁殖能力が低く死亡率が高いことが数種で報告されている。飛翔筋の有無についても同様のトレードオフが想定されるが、まだ詳細が明らかでない事例が少なくない。

オヒラタシデムシ(Eusilpha japonica)は、滅多に飛翔せず、翅に多型が見られないことが知られている。にもかかわらず、近縁種では飛翔に用いられている腹部間接筋が有る個体と無い個体が存在する。そこで本種では、腹部間接筋の有無がどのような能力に影響しているかに興味を持ち、多型の実態、および、外部形態、重量、性、越冬生存率などとの関係を調べた。

採集個体を計測した結果、腹部間接筋の有無の頻度はほぼ均等で、性・重量・体サイズとの関係もなかった。しかし、個体を低温条件下においた越冬実験では、実験後まで生存した個体のうち飛翔筋を持っているものが有意に多かった。このことから、腹部間接筋に多型が維持している原因の一つに、耐冬性との関係が示唆された。この結果から、越冬明けの5月には採集個体は腹部間接筋を持つ個体の頻度が高まると予測される。

また野外で通年に亘って採集した結果、捕獲される性比が季節により変化した。トラップで捕獲される確率は、活動性にも左右されるので、雌雄の活動性を室内実験で比較した。その結果、高温では大きな差はないが、一定の温度以下ではオスの活動性が有意に高いことが確認された。このことから、メスの越冬時期がより早い可能性が推測された。

日本生態学会