| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-278

阿寒湖マリモの保全を目的としたマイクロサテライトマーカーの開発

*西沢徹(国立環境研究所),村田詩乃(千葉大学理学部),高山浩司(千葉大学理学部),中嶋信美(国立環境研究所),若菜勇(釧路市教育委員会),綿野泰行(千葉大学理学部)

北海道阿寒湖のマリモ(Aegagropila linnaei)は球状の集合体を形成することで世界的に知られ,特別天然記念物ならびに絶滅危惧I類に分類される希少藻類である。現在までに,阿寒湖内に複数あった群生地が半減するなど,個体群の衰退が著しく,保全対策の確立が急務となっている。さらに,平成17年と18年の夏には,盗採と考えられる痕跡が湖底で確認され,これらは人工の球状マリモの原料として採取された可能性があり,市場に出回っているマリモの産地を遺伝学的手法によって鑑別する技術の確立も求められている。

釧路市教育委員会ではマリモの恒久的な保全を図るべく,現存する生育地への立ち入りを制限して保護管理を強化する一方,過去に消滅した個体群を復元再生することによって普及啓発を図ることができないか検討を進めている。このような自然再生事業では,残存する湖内個体群の遺伝的多様性を把握して移植個体群を選定する手順を踏むのが一般的であるが,マリモの場合,球形に発達する集合型の他に,着生型,浮遊型といった生育型の多様性があるため,これら生育型間の遺伝的な関連も明らかにしておくことが保全や管理のあり方を講ずる上で不可欠となる。

本研究では,濃縮法による従来の開発法と,コンパウンドマイクロサテライト配列を用いた開発法(Lian et al. 2006)の2種類の方法を採用し,マリモのマイクロサテライトマーカーの開発を行った。講演では,単離したマイクロサテライトマーカーを紹介し,開発法の違いによるマーカー化効率と多型性の程度,およびマリモ個体群の識別への適用可能性について検討を行う。

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