| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S05-3

水の動きから森林生態系の成り立ちを考える

熊谷朝臣(九州大・演習林)

乾燥地に生育する植生は、少ない水をギリギリの資源として利用する。そのため、環境変動による利用可能な水量の変動は、そこの植生・生態系にとって重要なものとなる。湿潤環境、特に熱帯雨林のような常に水が存在するような環境に生育する植生は、水という資源が常に十分に得られるという前提で環境応答する場合が見られる。そのため、“たまに訪れる”環境変動による水量変動は、やはり、その森林生態系を劇的に変える要因となり得る。つまり、乾燥もしくは湿潤という極端環境においては、資源としての水量の変動という極端条件が植生動態の決定要因になり得る例が見られる。

このような環境条件における植生動態を調べるためには、まず、短期間だけではなく長期間の環境応答・生理といったプロセス研究を行う必要がある。そうでなければ、“たまに訪れる”極端条件に対する応答を検出できないからである。可能であるなら、操作実験も有効であろう。そして、“たまに訪れる”環境の変化そのものを評価するために、長期気象データの入手が不可欠である。それは、自前で確保(観測)するのも良いが、多くの場合無理であろう。信頼に足る“パートナー”を見つけるという技術が必要とされる。

長期データが得られれば、極端条件は出現確率として評価できる。と言うより、評価しなければならない。極端条件は、どのくらいの強さで起きるか?という問題と同時に、どのような頻度で起きるか?という問題も含むからである。結果的に、極端条件に対する植生応答も確率として表現されるのが、具合が良いように思う。

本講演では、以上のような精神性で行われた・行われている研究の例を示し、遂行にあたっての注意点、研究の有用性を示したい。

日本生態学会