| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S11-6

獣害対策研究の現状と今後の方向性

仲谷淳(中央農研)

中山間地域での獣害が拡大し,平成17年度の全国の被害額は118億円に達している。中でも,イノシシの被害がとりわけ多く,約42%を占める。鳥獣害対策はしばしば3つの側面(個体数管理,生息地管理,被害防除)から議論される。イノシシ対策では,未知な部分の多い生態を調べるとともに,その特性に対応した被害軽減技術の開発が不可欠である。総合的な被害対策が望まれるが,イノシシ対策はこれまで個体数管理,すなわち捕獲(狩猟や駆除)に大きく依存してきた。しかし,性成熟が早く,産子数の多いイノシシは潜在的な繁殖力が強く,今後の狩猟者の減少傾向等を考えると,被害対策では生息地管理や被害防除にいっそう力を入れる必要がある。

イノシシの生息域拡大の原因として,イノシシあるいはイノブタの放獣が各地で囁かれている。第6回自然環境保全基礎調査(環境省,2004)では,イノブタ生息の可能性がある都道府県は30にのぼる。金色やツートンカラーという特異なイノシシも新聞を賑わしている。農作物被害ばかりでなく、生物多様性からも放獣対策が急務である。

イノシシによる農作物被害面積は2000年の19905haをピークに,ほぼ毎年減少して,2005年度は15332haとなっている(約21%減)。この原因は被害対策の効果とする一方,耕作放棄地の増加が関連しているとの指摘もあり,詳しく調べる必要がある。

今後の獣害対策研究の推進方向としては,野生動物そのものを中心に扱う動物学的アプローチに加え,人間の諸活動を扱う社会科学的アプローチの研究が重要となるだろう。両アプローチからの連携も欠かせない。近年の野生動物による農作物被害は,野生動物の生息個体数の増加よりも,人間側の産業や経済事情で農山村の活力が減少して,しだいに彼らが山里に姿を現すようになったと考えた方が分かり易い。最も効果のある鳥獣害対策は,農業をはじめとする人間活動の活発化とも言える。

日本生態学会