| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S15-3

中山間地問題の整理

酒井暁子(横浜国大・環境情報)

中山間地とは、長期間に渡る人の干渉によって形成された半自然的景観が卓越する地域で、里地あるいは里地里山とほぼ同義である。地理的には、人の影響が及びにくい高海抜地などの「奥山」と平野部の「都市域」の中間に位置する。国土の約4割を占める。

かつては、食料・燃料・肥料・建築材など生活に必要な物資のほぼ全てを身近な生態系から得ており、それらの生産性を追求する中で確立されたのが里地里山システムである。集落を中心に、田畑とこれに付随する農業的自然、薪炭林などの林業的自然、採草地などをモザイク状に配置し、システム内部で資源を循環させる。中山間地は昭和30年代以降、急速に変貌した。それは景観の成立・維持要因であった農林業・社会構造・生活様式の変化によって里地里山システムが崩壊したためである。

中山間地の変貌は一般的に好ましくないものと認識されており、その復元・修復・保全は今や国家戦略である。その目的として、1)生物多様性の維持:里地里山に特徴的なかつては普通種だった生物、とりわけ絶滅危惧種の保全、2)文化的機能の維持:伝統文化の継承、やすらぎの場の提供など、3)一次産業の振興:環境負荷を上げずに食料・木材・エネルギーの自給率を向上する、4)保水・砂防などのダム機能、気候調整などが挙げられる。里地里山システムはこれらの機能を十分に満たし、その崩壊はこれらの損失を意味するというのが、中山間地の復元・修復・保全の根拠である。

この根拠は妥当だろうか。江戸時代から森林の過剰利用は進行し、明治初期には禿山・荒地が広がり、土砂崩れや洪水が多発した。薪炭の生産は増加の一途で昭和20年代には莫大な生産量に達した。里地里山は、人と自然の持続可能な共存システムだったのだろうか。また「生物多様性」の維持等の目的を達するためには里地里山システムの再構築は必須なのだろうか。

日本生態学会