| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T01-1

趣旨説明:メタ群集という概念

奥田武弘(北大・環境)

古典的な群集生態学の研究の多くは、単一の空間スケールにおける閉鎖系の局所群集を仮定している。しかしながら、自然界の生物群集の多くは他の生物群集と生物個体や物質のやり取りをしている開放系である。また、生物の分布、現存量、種間相互作用などのパターンは様々な空間スケールで存在し、対象とするスケールに依存してそのパターンが変化する。したがって、生物群集パターンとその決定プロセスを研究するには、生息地間の個体の移動分散によって相互作用している局所スケールの群集、それらの局所群集の集合によって形成される大スケールの群集(メタ群集)、そして両スケールの群集間の相互作用を考慮した複数の空間スケールを横断する研究アプローチが有効である。

メタ群集の概念においては、(1)生息地間の環境勾配に対応した生物間相互作用の変化、(2)生息地間の生物の移動の程度、の2つが局所スケールとメタ群集スケール(地域スケール)の両方の群集構造の決定に強く影響すると考えられている。しかし、野外群集の多くは生息地間の環境勾配や生物間相互作用を正確に評価するのが困難である。さらに、野外では群集が構成されるハビタットの境界が不明瞭であったり、ハビタットの空間構造自体が時間と共に変化する場合が多い。そのため、メタ群集研究では、野外群集を対象とする場合は上記のような問題に起因する群集パターンとその決定プロセスの複雑化を避けることが出来ず、理論研究の先行が顕著である。

本企画集会では、メタ群集研究における理論研究と実証研究のギャップを埋めるために、地域多様性の違いや生物による物質輸送を考慮した現実に近いメタ群集を表現した理論モデルや、ハビタットの境界が明瞭で空間構造の時間変化が少ない水圏の生物群集を対象とした実証的なメタ群集研究を紹介する。総合討論では、現状のメタ群集研究における問題点、有効なアプローチ、今後の展望などに関する議論を行いたい。

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