| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T01-2

ガンマ多様性はメタ群集の存続可能性を高めるか?

瀧本岳(東邦大・理)

生物群集の多様性と安定性の関係を解明することは、群集生態学の重要な課題の一つである。エルトン(1958)は経験論的な考察から、多様な群集ほど安定であると提案した。しかし、メイ(1972)はランダム群集モデルから正反対の予測を導いた。これらの古典的研究以来、多くの野外研究、理論研究が多様性と安定性の関係を探ってきたが、決定的な答えは出ていない。

その一方で、近年、生物群集の組成や構造の空間的異質性を重視する立場がメタ群集概念としてまとめられた。これまでに多様性と安定性の関係を検討した研究の多く(特に理論研究)は、メタ群集のような生物群集の空間構造を考慮していない。

そこで本発表では、メタ群集の数理モデルを用いて、メタ群集に属する種の総数(ガンマ多様性)とメタ群集の存続可能性の関係を探る。この数理モデルは、空間的にはなれた多数の局所群集が個体の移動分散によってつながったメタ群集を想定している。単一の栄養段階に属する生物を主な対象とするが、どの栄養段階でも利用できるジェネラリストに対しても適用できる。また、局所群集の種数(アルファ多様性)が、局所群集内の各種の絶滅率や移動分散に影響すると考える。特に、アルファ多様性と局所群集内での各種の絶滅率の関係は、従来の多様性と安定性の関係に類似するものだといえる。対して、アルファ多様性と移動分散の関係は、メタ群集の枠組みのなかで初めて考慮することができる。

この数理モデルを用い、アルファ多様性が局所群集内での絶滅率や移動分散にどのように影響するかに依存して、ガンマ多様性とメタ群集の存続可能性の関係が決まることを示す。特に、アルファ多様性が仮に局所群集内の絶滅を促進しても、もし同時に移動分散をも促進するならば、ガンマ多様性がメタ群集の存続可能性を高めうることを示す。

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