| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T01-3

細菌のメタ群集動態と生物ポンプ:鉛直混合モデル

三木健(京大・生態研),Luca A. Giuggioli(Princeton Univ.)

海洋の炭素循環は,植物プランクトンによる一次生産と細菌による無機化がその両輪となって駆動されている.生産過程に関しては,植物プランクトンの機能の多様性が果たす役割の理解が進む一方で,無機化に関しては,細菌群集内の機能の多様性まで考慮した研究が非常に少ない.本研究では,細菌群集組成の深度方向での空間的不均一性が,無機化過程の不均一性および表層から深層への有機炭素の鉛直輸送過程に大きな影響を及ぼす可能性を数理モデルの解析により検討した.細菌群集組成の深度方向での違いおよび表層深層間での水の鉛直混合に伴う細菌の移動プロセスは,まさにメタ群集の枠組みで扱える事象である.

そこで,表層と深層からなる2層モデルを構築した.表層には植物プランクトンから溶存態有機物および粒子態有機物が供給され,それぞれの有機物をより選択的に利用する2つのグループからなる細菌群集を仮定した.水の鉛直混合と粒子態有機物の沈降という二つの物理プロセスによって2つの局所群集はつながっている.

モデルの解析の結果,平衡状態においては,深層で粒子態有機物を利用するグループが卓越し,また,鉛直混合が強いほど,このグループが表層においても現存量が多くなることが分かった.ただし平衡状態においては,群集組成と鉛直輸送量の間には明瞭な関係はなかった.一方,2種類の有機炭素の供給量が季節的に変化するというより現実的な状況(非平衡状態)においては,鉛直混合が強いほど深層からの移動により,供給された有機物の種類に応じた細菌組成へと,より短期間で遷移が進むことが分かった.これにより表層での無機化が効率よく進み,鉛直輸送量が低下することが予測された.以上の理論的考察により,物理プロセス・群集動態・物質循環過程の3つをつなぐ考え方を提示したい.

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