| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T09-2

空間自己相関モデルをもちいた花粉散布の空間パターン推定:ブナの花粉は本当に風で飛んでいるのか?

*富田基史(東北大・院・農), 花岡創(岐阜大・院・農)

花粉散布は植物集団の分化や遺伝的多様性の維持にかかわる重要なプロセスであり,近年では生態系への遺伝子汚染リスク評価の面からも注目されている.分子生態学的手法によって花粉散布の実態を推定する場合,まず父性解析によってどこに花粉親がいるのかを推定し,両親のあいだの距離の頻度分布から花粉散布を議論してきた.ところがこの解析手法は,花粉親の繁殖努力や個体間の開花時期の違いなど受粉貢献度に影響する要因を同時に検討できない点,両親間の個体間距離が花粉親の分布に影響される点に問題がある.そこで,本発表ではまず父性解析で得られたデータがどのような生態的プロセスにもとづいているのかを考え,階層ベイズモデルでそれを再現することでブナの花粉散布の実態を明らかにすることを試みる.

父性解析で得られるデータは,ある母親に対してそれぞれの花粉親がどれだけの割合で種子をつけることができたかである.したがって,本発表では母親に対する花粉親の相対貢献度に影響する要因を考える.相対貢献度に影響する要因としてまず考えられるのが,個体の繁殖努力と両親間の距離であるが,ブナのような風媒性樹木の花粉散布パターンは風向きや地形によって影響を受けるため,距離だけでは単純に説明できないと考えられる.ここでは空間自己相関モデルを用いることで,花粉散布の空間パターンをモデル化した.解析の結果,ブナの花粉散布パターンは風の吹きかたによって大きく影響を受けているという実態が明らかになった.

本発表では,発表者自身がこの問題に取り組んでから空間自己相関モデルにたどり着くまでの紆余曲折を紹介することを通じて,階層ベイズモデルや空間自己相関モデルなどの概念をわかりやすく解説し,これらの手法に興味を持ってもらえることを目標としたい.

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