| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T14-3

絶滅回避率:トンボ類レッドリストでの工夫

須田真一(東大・農学生命科学)

レッドリストはその社会的影響力も大きいことから、掲載種の選定については基本的に第三者が見ても納得できるような、定量的判定基準に基づく客観的な手法で行うべきである。日本においても、環境省版の維管束植物などではIUCN判定基準に基づく選定が行われている。しかし多くの分類群では定量データの収集が一般に困難であるために、現在でも定性的な判定基準による選定が行われており、昆虫類では絶滅危惧IA類(CR)とIB類(EN)の区分すらされていないのが現状である。演者の所属する日本蜻蛉学会では、IUCN種保存委員会トンボ専門家会議と環境省より、日本産トンボ目のレッドリスト作成を依頼されたのを受け、学会自然保護委員会内に作業部会を立ち上げた。種選定については「なぜその種がそのランクになったのか」が容易に判断できるような、絶滅率と現存生息地数をベースとしたトンボ目独自の数値化による客観的な種選定手法を試行した。その結果、絶滅危惧IA類(CR)3種、IB類(EN)6種、II類(VU)17種、準絶滅危惧(NT)17種となり、2000年版環境省リストとはかなり相違したものとなった。ここで最も大きな問題となったのは、旧レッドリストの上位掲載種であることが根拠となり、多くの生息地の保全が行われた結果、絶滅率が低下することで相対的にランクが低くなる種が存在していたことである。この場合、種の存続に対する負の影響そのものが低減したわけではなく、特にレッドリスト以外に保全の根拠となる位置づけのない種では、ランクが下がることによる保全意識の低下によって、生息地の破壊や消失がより加速されることが危惧される。そこで補正項として「絶滅回避率」を考案し、最終判定に用いたことによって、より現状に即したレッドリストを作成することができたので紹介したい。

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