| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T14-4

生態系の多様性を保全するためRDB種以外の種をどう評価するか?標津川の例

冨士田裕子(北大・植物園)

環境影響評価や自然再生事業前の現状把握調査では、植物に関して一般に植物相調査と植生調査が行なわれる。植物相調査結果は事業区域全体を対象とした一覧表で提示され、各種がどこに、どの程度生育しているのかは明示されない。加えて、証拠標本の採取と保管を行なわない場合が多く、種の生育を確認することができない。唯一、RDB種については分布地図や個体群の状況、個体数などが提示され、移植等の何らかの配慮がなされることが多い。しかしながら、事業のプランニングや環境予測、復元目標の設定、保全策の提示、事業後のモニタリング等が、対象地域の生態系の多様性を保全するためのものになるには、RDB種の存在のみを重視した現在の評価法は十分とはいえない。重要なのは、対象地域内にどのような条件の立地が存在するのかを明らかにし、それぞれに成立している多くの普通種から構成される群落の健全性や不健全性を、種組成や構造の面から評価することである。そして、評価結果に基づき予測がなされ、事業区域内の生態系の多様性の保護と質の向上をめざした復元目標や保全方策が立てられるべきである。

本報告で事例として取り上げる標津川の再生事業は、中〜下流域に残された三日月湖状の旧川を本川と接続し、再蛇行化を図るものである。現状把握調査は蛇行復元区域全体を一括して行なうのではなく、旧川別さらには群落ごとに実施した。再蛇行する旧川の周辺には、かつての河辺林であるハルニレ林、後背湿地のハンノキ・ヤチダモ林、ヌマガヤ群落、丘陵上のミズナラ林、河川の直線化や堤防工事後に成立した先駆林などが分布する。これらの群落を、再蛇行化しない他の旧川、リファレンスサイトの自然河川当幌川で同様に実施した植物相・植生調査結果と比較・評価した。

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