| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T16-2

ミトコンドリアDNA解析に基づく外来ザリガニ類の遺伝的変異と分散様式

*西川潮(国環研),東典子(北大),高村典子,高村健二(国環研)

北米原産のアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)とシグナルザリガニ(Pacifastacus leniusculus)は,水草の切断や,在来動物の捕食,病原菌の媒介などを通じて国内外で生態系被害をもたらしている世界的な侵入種である。アメリカザリガニは温水を好み,主に水田やため池などの二次的自然に生息するのに対し,シグナルザリガニは冷水を好み,天然湖沼や河川に定着している。これら世界的侵入種の定着成功の鍵は何だろうか?本研究では,ミトコンドリアDNA解析(COI,16SrRNA)に基づき,二種の外来ザリガニの遺伝的変異と分散様式を明らかにした。

日本各地からアメリカザリガニをサンプリングし,解析した結果,国内の侵入個体群には遺伝的変異が認められなかった。しかしながら,原産地ルイジアナ州(アチャファラヤ湿原)では,日本と同じハプロタイプを含む9種のハプロタイプが認められた。このことから日本に移入されたアメリカザリガニは,創始者効果の影響を受けた,もしくは,現存のハプロタイプに強い選択圧がかかったことが示唆された。

一方,日本に移入されたシグナルザリガニは,複数起源由来のハプロタイプが混ざり合って,少なくとも国内3地域(北海道,長野,滋賀)に移植され,これらの地域間ではハプロタイプ構成,外部形態ならびに外部寄生虫組成が明瞭に異なることが示された。また,近年,急速に分布を拡大しているのは北海道由来のハプロタイプであることが示唆された。

これらのことから,移入時の個体数や在来個体群の由来の数を反映して、アメリカザリガニでは遺伝的多様性が低下しているのに対し、シグナルザリガニでは遺伝的多様性が高いこと,侵入個体群間の変異が大きいことが明らかとなった。最後に、二種の侵入生態について,生態特性や文化的背景の影響を含めて考察する。

日本生態学会