| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-03

系統地理学的アプローチからツキノワグマの分布拡大過程をさぐる

*大西尚樹(森林総研・関西),鵜野レイナ(慶大・先端生命),石橋靖幸(森林総研・北海道),玉手英利(山形大・理),大井徹(森林総研・関西)

アジア大陸東部に分布域をもつツキノワグマは、日本では本州全域および四国に生息している。ツキノワグマは50〜30万年前に朝鮮半島を伝って日本に渡ってきたと考えられている。大陸から日本への移入は複数回あったのか、またどのように分布を拡大していったのかを明らかにするために、国内のサンプルおよび大陸のデータを用いて系統地理学的解析を行った。

中国地方を除く本州各地および四国から収集した筋肉片、血液、体毛、糞など計589サンプルを用いた。中国地方および近畿地方では先行研究から108個体分のデータを引用した。中国四川省、雲南省、北朝鮮、台湾のツキノワグマのデータはDDBJより引用した。

ミトコンドリアDNA D-loop領域約700bpの塩基配列を決定した結果、57ハプロタイプが検出された。ベイズ推定による系統解析の結果、これらは3つの大きなクラスターに分けられた。各クラスターに属するハプロタイプの分布域は琵琶湖〜東北(東クラスター)、琵琶湖〜中国地方(西クラスター)、紀伊半島および四国(南クラスター)と明瞭に分かれた。大陸および台湾のツキノワグマは日本とは異なるクラスターを形成し、それらは日本の3クラスターよりも分岐が深かった。分岐年代を推定した結果、日本の3クラスターは比較的短時間で分岐したと考えられた。

以上の結果から、日本のツキノワグマは朝鮮半島を通じて大陸から1回渡ってきた後、短時間で3系統に分岐が進んだ。その後、各クラスターの分布域間での遺伝子流動はほとんど無く、地域特異的な分化が進んでいったと考えられる。


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