| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-07

有性生殖・無性生殖の共存:10年スケールでの有性型・無性型フナの個体群構造の変化

*箱山 洋(中央水研),小関右介(中央水研),川之辺素一(長野水試),原田祐子(中央水研),松本光正(中央水研),岡本千晶(中央水研),児玉紗希江(中央水研)

無性型・有性型からなるフナ類の共存はパラドックスである。異型配偶子の有性生殖にはオスを作るコストがあるため、増殖率は無性生殖に劣る。有性集団の性比が1:1であれば、増殖率は1/2になる(有性生殖2倍のコスト: Williams 1975)。一方、フナ類の無性型は雌性発生gynogenesisであり、無性型の卵の発生には有性型のオスの精子が必要である。この雌性発生ではオスの遺伝子は遺伝的には貢献せず、子供は親のクローンとして誕生する。性以外の形質が同一だとして、これらの制約のみから個体群動態を考えると、2倍の増殖率で無性型の比率が増加し、相対的にオスの比率が減少することで産卵できないメスが増える。結果として、全体の個体数は減少していき、両者ともに滅びることになる。ここでは、共存を説明する二つのモデルについて、野外のデータからその予測を検証する。第一に、Hakoyama & Iwasa 2004の病気モデルで仮定している無性型の高い死亡率が野外個体群で観察できるのかを調べた。諏訪湖のフナ類について年齢査定を行い、安定齢分布を仮定して、有性型・無性型の各年級群の死亡率を比較したが、差はなかった。つぎに、中立仮説(何らかの理由で有性・無性で適応度の違いがない場合、個体数が多ければ、絶滅に長い時間を要するため共存が観察される)では、有性無性型の比率に大規模な時間変化は観察されないはずである。1997・1998年の諏訪湖の有性無性比を2006-2008年のそれと比較したところ、10年前に多数派であった有性型が、現在では少数派になっており、モデルの予測は支持されなかった。有性無性型の比率は動的に時間変化していることが明らかとなった。


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