| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M2-04

永遠の命を得た女王:単為生殖によるシロアリの女王位継承

松浦健二(岡大・院・環境・昆虫生態), Edward L. Vargo (North Carolina State Univ.), 辻和希(琉球大学・農)

古の世の権力者たちは永遠の命を得ようと切望した。王位、女王位の継承に様々なコンフリクトが絡むのは虫の世界も同じである。我々は、野外の成熟コロニーの遺伝解析により、ヤマトシロアリの創設女王が、補充女王(巣内で創設女王の生殖を引き継ぐ)をほぼすべて単為生殖で生産していることを発見した。これは、これまで室内飼育やワーカーのみの遺伝解析から推定されていたシロアリの繁殖様式の常識を根底から覆す事実の発見である。

これまで、シロアリの繁殖様式について、補充女王は創設女王と創設王の娘だと考えられており、女王の死後は近親交配によって生殖が引き継がれると考えられてきた。しかし、近親交配は個体レベルおよびコロニーレベルでの遺伝的多様性を低下させるため、大きなコストを伴う。本研究によって、補充女王は創設女王が単為生殖で産んだ娘であり、補充女王と創設王の交配によって生殖が引き継がれていても、近親交配は一切生じないことが判明した。

さらに、創設女王は補充女王を単為生殖で産む一方、ワーカーや有翅虫(巣を飛び立って独立創設)は有性生殖で生産していた。つまり、この繁殖システムによってワーカーや次世代女王の遺伝的多様性の低下は、常に回避されている。また、野外コロニーにおいて、創設王はすべて生存している一方、創設女王はほぼすべてニンフ型補充生殖虫に置換されていた。これは、創設王と女王の寿命が著しく異なることを意味する。これまで考えられていたように、創設王とその娘の近親交配によって生殖が存続された場合、次世代への創設女王の遺伝的寄与は低下し、創設王と女王の間にコンフリクトが生じる。しかし、創設女王が単為生殖で次の置換女王を生産することにより、創設女王の次世代への遺伝的寄与は自らの死後も保証されている。


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