| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-033

神奈川県伊勢原市郊外にあるコナラ・クヌギが優占する雑木林での樹木相などの変遷

櫻井一彦(成城大学社会イノベーション学部)

かつて薪炭林として利用されてきたコナラ・クヌギが優占する雑木林は、生業と関連した位置を失い、放置されてきた。近年、里山に対して生物多様性上の価値が見直される中、そうした雑木林に対しても、かつての薪炭林利用時を模倣した皆伐と萌芽更新による管理があらためて取り入れられることも多い。しかしながら、たとえば木本相をみると、コナラ・クヌギが優占する雑木林は必ずしも豊かではなく、高木相は非常に貧弱である。

本研究では、「薪炭林」の放置でも復元でもなく、「多様な高木相をもつ林」を成立させる方法を検討するために、伊勢原市郊外の丘陵地(富岡地区)の落葉広葉樹の雑木林が広がる地域で、主にコナラとクヌギが優占しているほぼ南向きの斜面に二つ区画を設定し、1994年から樹木などの変遷を調べた。両区画を含む範囲はかつて薪炭林であった場所である。一度は草刈りなど林床の管理もなく放置されていたが、1980年代から定期的な林床の草刈が再開されていた。二区画のうち一方の区画では草刈りを継続し、他方の区画では草刈りを中断した(ただし2003年からアズマネザサだけを刈り取りを一部で開始)。

いずれの区画においても、元から高木層を形成しているコナラやクヌギの立ち木に枯死が進行していった。草刈りを中断した区画においては、1998年には30種近い木本の実生が確認され、低木層が成り立つにいたった。その中には将来高木層を形成する可能性のあるイタヤカエデ、ケヤキなど区画内の現高木層にない8種の稚樹が含まれており、多様な高木相が形成される可能性を示唆していた。草刈りを中断した区画では2008年現在3−4層の植物が生育する雑木林となっているので、その経過の一部を報告する。


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