| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-085

個体内の異なる光環境に応じたシュート間の不均一な窒素分配

*杉浦 大輔 , 舘野 正樹 (東大・院・理)

樹木の樹冠内の光環境は、林床の低木、ギャップ縁に生育する樹木、林冠に達した成木に至るまで、不均一である。そのような不均一な光環境下に置かれた個々のシュートの成長や動態は、branch autonomy に従って光合成産物については独立しているが、その他のシュートの光環境にも影響を受けることが知られている。例として、個体内に明るい環境下のシュート(明シュート)が存在すると、暗い環境下のシュート(暗シュート)の成長が抑制されるが、個体全体が暗い場合には起こらない、 Correlative inhibition 現象が知られている。

本研究では、不均一な光環境下の個体において、明シュートへの優先的資源配分の結果、暗シュートの成長が抑制されるという仮説を立てた。資源物質として、順次吸収・分配される窒素(N)、春期の新葉展開時に消費される貯蔵炭水化物(貯蔵C)に注目し、数理モデルによって各資源物質の明シュートへの優先的資源配分の効果を予測した。

2分枝に仕立てたヤマグワ1年生実生を、(ア)2本とも明シュート、(イ)1本ずつ明・暗シュート、(ウ)2本とも暗シュート、として生育させ、モデルのパラメータ採取、及び実測データとして、モデルの予測結果と比較した。

モデルは、成長器官である地上部と窒素吸収器官である地下部のバランスを取りながら成長する場合、Nの明シュートへの優先的配分は明・暗シュートの葉のN及び成長量に影響を与えるが、個体全体の成長速度はほとんど変わらないことを予測した。一方で、貯蔵Cの明シュートへの優先的配分は、個体の成長速度を大きく上げることが予測された。

実測のデータは概ねモデルを支持するものだった。当日は、詳しい結果とともに、correlative inhibition 現象のメカニズムと生態学的意義について考察する。


日本生態学会