| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-102

ヒノキ科樹木の漏脂病発症の謎

*山本福壽(鳥取大・農),小谷二郎(石川県・林試)

ヒノキアスナロ(アテ)漏脂病被害は、ヒノキ漏脂病が問題となった昭和60年代くらいから能登で注目され始めた。能登の被害面積は約600ha、激害は約34万本である。漏脂病は、胸高直径15cm前後の林分で最も被害が多く、成長とともに患部が治癒する。また15cm前後の部位が漏脂病発生に関係するとされる。漏脂病被害には遺伝的な因子が関与しており、アテ品種系統別で差がみられている。品種名クサアテの一斉林では集団的な枯死症状があり、特に高標高ほど漏脂病の被害率が高く、漏脂病に風害や雪害等の気象害の関与が示唆された。さらに青森県のヒバ林では収量比数と被害率の関係は正の相関関係があり、高密度ほど被害に罹りやすく、成長とともに被害率が増加する傾向がある。またヒノキ人工林の強度間伐は漏脂病被害を助長するようであり、間伐による急激な環境変化が樹幹に強い乾燥ストレスを与えることにより漏脂病を誘引する可能性がある。一方、漏脂病発症の直接的な因子として糸状菌のCistella japonica菌による感染が有力視されている。C. japonicaは常在する菌であるが感染させるのは容易ではなく、人為的には早春期に感染させやすいことが明らかにされている。以上のことから演者らは、ヒノキ科漏脂病は遺伝的因子と樹齢が関与しており、森林密度の変化などによる乾燥や低温などの環境のストレスが樹幹に生じ、これらの条件が揃うことでC. japonicaの感染が生じ、発症するとの仮説を持った。また感染から発症までには刺激伝達物質であるエチレン、ジャスモン酸、およびサリチル酸が関与することを予測し、これらの人為的処理による漏脂症状の発現を実験的に検討した。その結果、これら3種の物質の濃度バランスが関与する可能性を認めた。今回はこれらの実験結果の紹介を中心に、漏脂病の謎についての報告を行う。


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