| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-112

アリ散布植物ミヤコアオイの種子分散:植生の違いは種子分散に影響を与えるのか?

*松井浩幸(阪教大・院),石田清(弘前大・農),濱口京子(森林総研・関西),岡崎純子(阪教大)

植林による生育環境の分断化は林床性植物の集団の多様性に影響を与える。特に、アリ散布植物のように散布距離が他の散布様式に比べて短いものは、移動・定着が制限されるため分断化の影響を受けやすい。本研究で材料とするミヤコアオイ(Asarum asperum)は林床性常緑草本で、アリ散布植物として知られている。演者らは第55回生態学会大会で、本種の遺伝構造の解析から、血縁個体が近距離に集中分布すること、人工林では遺伝的多様性の減少が見られたことを報告した。この様な遺伝構造の違いを生み出す要因としては、種子分散や花粉分散の違いが考えられる。そこで本研究では、種子分散に注目して、植生の違いが種子分散に与える影響を明らかにすることを目的とし、分散者であるアリの種組成、その分散距離を調査した。調査は、滋賀県大津市の人工林3地点・二次林5地点で行った。各調査地に生息するアリの種組成を調べ、2007年に、糸付けでマーキングした種子を各調査区に設置し、1〜3日後に回収を行い、散布距離を測定した。2008年に、アリ種別に種子の運搬過程を観察し、追跡調査を行うことにより、アリ種と運搬距離の関係を調査した。その結果、調査地域内では9種のアリが生息しており、種組成と植生との関連性は認められなかった。また、二次林・人工林ともに80%以上の種子が1m以内の比較的近距離に分散されていた。行動観察の結果、アリの種によって、種子の運搬に関わる行動様式に違いが見られ、植生よりも各地点に生息するアリの種組成の違いが種子分散に影響していることが示唆された。これらのことから本発表では、遺伝構造と種子分散の関係性についても議論を行う。


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