| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-114

人工果実を用いた陸ガニによる種子散布環境の特定

*伊藤信一(静大・教育),小南陽亮(静大・教育)

陸ガニの行動と種子散布における空間的な特性とを明らかにすることを目的として,静岡県浜松市のアカテガニ,クロベンケイガニ,ベンケイガニの3種の陸ガニが豊富に観察された海岸林において,ラインセンサスによって陸ガニの生息環境を調査した。次に,陸ガニの種子散布特性を解明するために,アカメガシワの種子を用いた直接観察を行った。さらに,3種の陸ガニの種子散布における散布距離と散布環境を明らかにするために,野外においてマーカーを入れた人工果実を陸ガニに持ち去らせ,マーカーを再発見する調査を行った。本調査地において,3種の陸ガニが活動する場所を棲み分けていた。アカテガニは,比較的乾燥した環境において高い個体数密度を示した。クロベンケイガニの分布は湿性な環境に限られた。ベンケイガニは,アカテガニと各環境における個体数密度には差がみられなかった。直接観察では,クロベンケイガニとベンケイガニの2種では持ち去った種子を巣穴入り口で採食している個体が,それぞれ66%と88%の高い割合で観察された。それに対して,アカテガニでは巣穴入り口で採食している個体は8%に過ぎず,調査範囲外まで持ち去ったり,採食後の種子を地上に捨て去る個体が合計で92%であった。2008年と2009年ともに,マーカーは陸ガニの巣穴周辺や巣穴内部から高い割合で発見された。散布距離の平均値は,湿性な環境である海岸林下部で1.2m,比較的乾燥した環境である海岸林上部の2地点で1.8mと1.6mであった。最大散布距離は,海岸林下部で5.5m,海岸林上部の2地点で7.3mと10.0mであった。本研究により,3種の陸ガニの生息環境や種子散布特性の違いから,海岸林の更新動態に影響を及ぼしている可能性が示された。アカテガニにおいては,種子を海岸林の林床の広範囲に分散させることで,3種の陸ガニのなかで種子散布者として最も適していると考えられた。


日本生態学会