| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-129

アオモリトドマツにおける、種鱗離脱時期までの残存について

関剛(森林総研北海道)

針葉樹の種子散布では球果が動物によって運ばれる散布様式がある。球果の運搬は多数の種子を同じ場所にもたらす。種子や実生の生存は立地環境の影響を受けるため、動物によって運搬される球果の全球果に対する割合は、生産された種子における生存率に影響を及ぼす。

このような観点から、モミ属の一種・アオモリトドマツを対象に、動物によって運搬された球果の割合について検討した。モミ属では球果軸と枝の維管束が枝の軸上でつながっていて、球果は枝から離脱しにくい。また、種子の飛散は、種鱗基部で離層が形成された後、種鱗が球果軸から離脱する時期に起こる。このため、種子を含んだ球果のうち動物によって運搬される割合は低いと予想される。

調査は岩手山西方の姥倉山および大松倉山のブナ・アオモリトドマツ群落で行った。姥倉山では、1995年から1997年に10日間隔で樹冠に登り、球果の生残過程を追跡した。追跡した球果数は、1995、1996、1997年でそれぞれ446、36、53個である。大松倉山では、2008年初夏に位置を記録した666個の球果について、種鱗が離脱を始めた時期に動物が関与した痕跡の有無を確認した。

姥倉山では、動物による球果の運搬が確認されたのは1996年のみで、1個体の球果10個が持ち去られていた。球果は、着いていた枝が切断されて運ばれていた。大松倉山では動物が関与した痕跡は確認されなかった。

アオモリトドマツでは、動物によって運搬される球果の全球果に対する割合は低いと推定される。個々の種子の動物による運搬は、種鱗が離脱する直前の球果上と、種子が飛散した地表面上で起こると考えられる。動物によって運搬される球果の割合が高い樹種に較べると、多数の種子が特定の立地に運ばれる確率は低いと推測される。


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