| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-212

トキの採餌環境創出を目的とした水田生態系の実験的評価 I.湛水管理方法と生物多様性・生物量との関係

大石麻美,武山智博,関島恒夫(新潟大・院・自然科学)

トキ(Nipponia nippon)は、かつて里山生態系に生息する代表的な水鳥であったが、狩猟や水田における農薬使用などの影響により日本個体群のトキは絶滅した。環境省は、日本個体群と遺伝的に同一とされる中国個体群のトキ保護増殖を推進し、2008年に10羽の試験的放鳥を行うに至った。野生動物の再導入あたって、対象地域は長期にわたり存続可能な個体群が維持できる環境であるべきとされるが、現在の佐渡における水田環境は、圃場整備事業や河川改修事業により餌生物が著しく減少し、生息地復元が必要とされている。特に採餌環境において、佐渡市では水田の一部に常時湛水となる深み(以後、「江」とする)の創出、および放棄水田の常時湛水化を行っているが、その規模は局所的かつ散発的となっている。今後のトキ生息地管理を考える上で、これらの湛水管理方法が及ぼすトキの採餌環境としての効果、ならびに水田生態系における生物群集構造の評価を速やかに実施し、より効果の高い再生技術を確立する必要がある。

本研究は、トキの再導入にあたっての採餌環境復元、および水田生態系復元の両視点から、トキと地元農業が共生できる水田管理や環境創出方法を提言することを目的とする。特に湛水の効果に着目し、水田を対象とした場合には「江」の新規創出が、休耕田を対象とした場合には「通年湛水」という処置が、水田生態系の生物でありトキの餌生物である魚類、両生類、水生・陸生昆虫類の生物量や多様性に与える影響について、水田立地特性(水田周辺の森林面積で区分した里山環境と平場環境)を考慮して実験水田を設け、年間を通じた評価を行った。


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