| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-606

外来雑食者と系外流入が引き起こす群集の非線形動態

*西嶋 翔太 (東大・農・生物多様性),瀧本 岳 (東邦大・理),宮下 直 (東大・農・生物多様性)

外来捕食者の侵入は在来生物を減少させ、群集構造を大きく改変させる。近年では外来捕食者の影響を増大させる仕組みとして、hyperpredationとmesopredator releaseという2つのプロセスが着目されている。前者は、外来捕食者が別の餌からボトムアップ効果を受けていることにより生じる見せかけの競争のプロセスである。一方で後者は、より高次の捕食者 (外来種であることが多い)が駆除などにより減少し、トップダウン栄養カスケードの間接効果が弱まることによって生じる。これまでの研究はこれらのプロセスを個々に扱ったものに限られており、同時に両方のプロセスの影響を評価した例は皆無である。

外来種アメリカザリガニはヤゴなどの在来水棲動物を捕食により減少させるが、同時に水草を植食・切断することで水棲動物の隠れ家を喪失させる。そこで本研究では水草の隠れ家の効果を組み込んだ数理モデルを構築し、ザリガニを支える系外資源 (リター)とザリガニを捕食する高次捕食者 (外来魚)が、ザリガニを介してヤゴに与える影響を予測した。その結果、系外資源の増加や高次捕食者の減少はヒステリシスなどの激しい非線形反応を引き起こし、ヤゴを突発的に減少させることが明らかとなった。さらに系外資源の増加と高次捕食者の減少が同時に生じると、2つの効果が相加的だけではなく相乗的に作用し、ヤゴを激減させうることが示された。これらの結果はhyperpredationとmesopredator releaseの2つのプロセスがザリガニの捕食の影響を強めることで在来生物を急激に減らし、群集構造を著しく改変する可能性を示唆している。このような系においては、複数の管理手法を組み合わせることで在来生物の個体群維持・回復の可能性を探ることが必要であると考えられる。


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