| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-260

森林の果実生産量と結実フェノロジーの緯度による変異

半谷吾郎(京都大・霊長研),相場慎一郎(鹿児島大・理)

森林の果実生産のパターンは、果実食動物のバイオマスや分布パターンに影響を及ぼす重要な要因である。果実食の霊長類や鳥では、熱帯よりも温帯の方が種多様性やバイオマスが大きいという一般的な傾向が見られるが、この傾向を説明するためには、温帯から熱帯まで、ひろく果実生産のパターンを比較する必要がある。本研究では、森林の果実生産量と結実フェノロジーの緯度による変化を、著者らの未発表資料を含めて、文献調査によって明らかにした。果実生産量については、単位面積当たりの果実落下重量を比較したところ、緯度による緩やかな勾配が認められた。ただし、温帯と熱帯との差は2倍弱程度で、同所的に生息する果実食動物(たとえば霊長類)の種数に見られるような、10倍もの大きな差ではなかった。この傾向は、2年以上調査を行った研究に限定しても認められた。また、同一緯度内でも果実落下量には大きな変異が見られた。結実フェノロジーについては、一年のうちに結実が見られない月の数、結実のピークが見られたカレンダー上の月を比較した。熱帯では一年中結実が見られるのが普通であるのに対し、温帯では1月から半年間、結実がまったく見られない月が存在するのが普通だった。一方、温帯では結実のピークは秋(北半球では9-12月)に集中していたのに対し、熱帯では特定の月に偏っている傾向はなかった。さらに、4年以上の長期間調査を行った数少ない研究からは、温帯の方が年周期性が強い傾向が見られた。以上のことから、温帯は熱帯に比べ、果実生産の総量については、やや少ないものの、場所によっては熱帯をしのぐことも珍しくないこと、一方で果実生産の季節性は大きいが、そのパターンは比較的予測可能であることがわかった。


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